ウクライナ侵攻の現在までの分析と考察(2022年9月26日)

ウクライナ侵攻の考察

 

開戦序盤

2022年2月下旬に開戦したウクライナ戦争、開戦劈頭の奇襲性とロシア軍の準備と物量によってウクライナは東部地方と首都近辺への侵入を許し、首都陥落戦争終結も間近とも思われる戦況が継続した。

戦争というものは、序盤は攻撃側の優勢に推移することがおおい、これは戦線のアプローチに対する選択権が攻撃側にあるという点があると考えられる。

  • 攻撃側はいつ、どこを、どの程度(攻撃の達成目標や目的、敵をせん滅、撤退に追い込む、占領、いやがらせ、牽制等々)攻撃するかを決定することが出来る。逆に、守備側は、侵攻を防ぐという点から、兵力の分散、方針の決定が行いにくい点があげられる(例外は、防衛の放棄による戦力の選択と集中があげられるが、侵攻の助長になる可能性もあり積極的に用いられることは過去少ないと思われる。例としてパリ無防備都市宣言や、WW2のマジノ線等のフランス防衛線)

攻撃側であるロシア軍は、攻撃対象の選択、戦力の選択と集中の決定権を持っており、守備側のウクライナ軍は攻撃側のロシア軍に併せるしかないという点である。

 

また、ウクライナ軍(国全体を含む)戦時体制の準備不足も開戦劈頭のロシア軍優勢の戦況を作り出していると言える。これは、ウクライナ軍の準備不足というよりは、平時の民主主義国家としては最大限の準備を行っていたと思われる。逆にウクライナは開戦以前から東部やクリミアでの戦闘状態(国内の不安定化)であったために、軍の動員などは平時の国家より進んでいたとも考えられる(逆に、えん戦気分への国民感情への配慮も考慮されるべきである)ものではあるが、戦時の特に大規模侵攻の戦線を押し返す(奪還する)だけの準備はできなかったという点である。これはウクライナの国家基盤財政状況国民感情等の要素に起因するものであり、平時の民主国家としては越えられない壁のようなものである。

  • 平時の軍備拡張や軍への動員(戦時体制※戦時経済体制も含む)は自由主義国家からは投資であり、開戦までは不要と言われ続ける類のものである。(軍の動員は、兵器の購入だけでなく、被服、個人装備、軍人への手当等の資金投入と、経済基盤の労働力を軍へ配分するための国家経済基盤の変遷につながるものであり、経済活動への著しい悪影響が出るものである)

また、そもそも、ウクライナ軍の規模や装備練度から敵国の占領地域の奪還能力が備わっていなかったとも推察される。

 

奪還

では、そもそも戦時における敵軍の被占領地域の奪還とは、どのような状況を定義するのか?

敵軍の被占領地域の奪還とは、敵勢力(ここでは軍事的、戦闘可能集団、勢力とする)の排除(ここでは降伏、武装解除を含むが無力化は含まない)、被地域住民への行政サービス提供と権利義務の行使と履行、その他に市民生活が送れる基盤整備、以後の防衛(再奪還などの防止)があげられる。また、特に今次戦争も市街戦と砲迫戦が展開されており、ライフライン等へのダメージも相当な範囲で発生しているものと考えられ、その復旧も急務となるだろう。

つまりは、軍事の常識としては過去も現代も変わらず最後の決は歩兵なのである。敵勢力を排除し、地域の確保を行うのは、最後は結局歩兵を駐屯させ、地域の安定を図る必要がある。

では、そのための戦力と兵力をウクライナ軍は持ち得ているのか?東部および南部の広大な地域のロシアの占領地と自軍よりも推定上大戦力を有すると考えられるロシア軍に対し抗戦し、排除しつつ、地域の安定を図る兵力を結論としては、ウクライナ軍は持ちえないと考える。

また、この地域の安定という点が現代のウクライナには難しい問題であると考えられる。これは島国であり、移民文化が発達しなかった日本には理解しにくい問題であるが、地理的に、陸続きの地域には、多種多様な歴史を持つ民族やコミュニティがあり、地域的特性と民族やアイデンティティ特性がずしも一致しないことがある、それが多様な考え方を発生さえ政治的対立を招くことがある。

現在のウクライナはそのような状況が、戦争を誘発させているものである。

ウクライナは、新ロ派と呼ばれる勢力(もしくはそう分類される勢力がある。ただし、新ロ派にもある程度の温度差(積極的にロシアの誘因を促す勢力と、ロシアの関与は求めるが占領や併合までは求めない勢力)があるようにも思う。

ウクライナが、現在のロシア占領地域を奪還した場合、その地域の安定化はこの新ロ派と呼ばれるコミュニティの抵抗がどの程度あるかによる。または、再占領時に新ロ派の勢力(なかでも過激派や強硬派と分類できる勢力)をどの程度分離(分類)できるかによる。

この分離はロシアが、東部および南部で占領時に行った手法であるが、人道的見地からもとても危険な手法であるが、占領地の安定化の為にはとても有効な手段である。

また、この奪還に必要なのは、純粋な機甲戦力と歩兵戦力という陸軍の代表的な戦力であるが、ロシアの侵攻以来、多数の兵器を失い逆に鹵獲しているとはいえ、西側諸国からの機甲兵器の供与が限定的なウクライナ軍にそれだけの戦力が整えられるのかが疑問である。

次に考慮すべきはロシア軍の状況である。ウクライナ軍はアメリカなどの支援を有効に生かしまた新楽されている側の国という特性を生かし、ロシア軍の後方攪乱を実施している。また、報道を見る限りロシア軍はその後方攪乱作戦に有効な対応ができていないように思われる。その結果、前線のロシア軍は補給(食料、武器弾薬、医薬品、生活物資、補充兵)が不足し危機的な状況、強いて言えば、継戦能力が喪失している可能性がある。

そうなると自主的な撤退に移る可能性があり、ウクライナ軍とロシア軍との間に戦力の空白地帯が生じる可能性がある。その空白地帯にウクライナ軍が浸透するのは自明の理であり結果としての領土奪還につながると考えられる。私は、現在の東部ルハンシュク州のハルキウ、イジューム方面の戦況推移はその結果であると推察する。

これは、結果からみると奪還した事には変わりないが、撤退したロシア軍兵力に決定的な打撃を加えているわけではなく、残存する兵力に再編補給をし、整えた部隊での逆撃の可能性も考慮すべきものと考える。その逆撃に耐えられるだけの戦力をウクライナ軍は整えているのか?補給などの兵站は十分に確保されているのか?という点が一抹の不安である。

 

これからの戦況推移の予想

全体を通しては、私は、このウクライナ侵攻は長引くと考えている。時間軸では2から3年のスパンではないかとも考える。

これは西側諸国の煮え切らない支援(核の脅威と、西側諸国の思惑からは仕方がない面もある)と、ロシアの政治経済、軍の状況、ウクライナ軍の決定的な戦力の欠如とウクライナという国の現状(汚職横領のはびこった国で現在は侵攻という脅威の前に奮起しているが、一定の安定や倦怠期に突入した際に根本の解決がされていない中では国内状況が悪化する可能性がある)

ウクライナ軍は、この後、ある程度の領土奪還は進めると考える。特に南部においては、ヘルソン市のドニエプル川東岸地域を北部から圧迫してメリオポリからドニエプル川までの地域を奪還するのではないかという予想を立てる。

これはドニエプル川の主要な渡河地点となる橋は損傷しており、大河の渡河は容易ではないこと、ロシア軍もその期(渡河時)に攻撃してくることが予想され、ウクライナ軍には致命的な損害が出る可能性があること、また、ドニエプル川東岸でも、北部はウクライナ軍の勢力下であり、ザポリージャを制圧してメリオポリを奪還すれば南部と東部の分断を達成できる。そうなればロシア軍はクリミアからの細い補給線に頼ることになり、すでに、クリミア半島は攻撃対象としての成果があり、補給拠点としては心もとなく、南部地域での戦力維持と地域の占領維持は絶望的となるだろう。よって、関連する部分としては東部地域であるハルキウ方面の確実な確保が出来れば、ウクライナ軍の南部奪還も可能となる。

但し、それ以降のクリミアと東部地域のマリウポリ地域までの奪還にはウクライナ軍の戦力は不足しているのではないかと考える。

よって、現在の戦線は一定期間形成され、半ば一時きゅうけいを両者がとると思われる。この休憩時間(戦線の停滞期間)に後方の体制をどう整えるかが、今後の勝敗や戦局の推移に大きな影響を与えるのであり、これは両国の政治力と経済力の問題である。